ルカは「失われた羊のたとえばなし」と「失われたぎんかの銀貨のたとえ話を
結合することにより、失われた存在と、探し求める存在との間に成立する関係性
の回復を描いている。しかし、その関係性の回復は(罪人である)失われた存在の
改心的行為によってのみ生じるのではなく、探し求める働きかけがあって成立し
ている。
またその一方で、ルカは(メタノイア)を拒絶する義人についての批判も展開
している。ルカにおいて義人は、字義通りの意味で神に対して正しい行為をする
人々ではなく、イエスと罪人の交わりに不平を宣べる不信仰者として登場してい
るからである。本来彼らにも必要とされるメタノイアは拒絶されているのであり、
そこにもルカの関心が注がれている。
そういう意味で、ルカにおける「罪人」と「義人」の立場は一般的な理解とは
反対になっている。つまり、神から遠い存在とみなされていた罪人が神に立ち帰
って関係性を回復し、神に近いと思われていた義人が神との関係を拒絶するとい
う皮肉な現実を表しているのである。
「ルカの救済思想」ー断絶から和解へー 木原桂二署より
コメント